iPS網膜の移植患者、7年超「腫瘍化せず、視力維持」 学会で報告)

朝日新聞デジタル (2022/03/24

 2014年にiPS細胞からつくった細胞移植の世界初の症例となった、加齢黄斑変性の患者の長期間の経過が24日、京都市で開催中の日本再生医療学会総会で報告された。定期的な経過観察の最新データとして、移植から7年の時点でも腫瘍(しゅよう)化などは確認されず、標準的な治療薬を使わずに、手術前の視力を維持できているという。
 当時の移植手術を執刀した、神戸アイセンター病院の栗本康夫院長が発表した。この患者の1年以上の長期間の経過が、学会などで報告されるのは初めてという。
 患者は、手術当時78歳。目の中で光を感じる視細胞へと栄養を送る「網膜色素上皮(RPE)細胞」の下に余分な血管がつくられて視力が落ちる「滲出型(しんしゅつがた)加齢黄斑変性」だと診断されていた。栗本さんや、当時理化学研究所プロジェクトリーダーだった高橋政代さん(現ビジョンケア社代表)らによる臨床研究に参加した。
 手術は、2014年9月に実施された。余分な血管を除いたあと、患者自身の皮膚の細胞からつくったiPS細胞を、さらにRPE細胞に変化させてシート状にしたものを、右目に移植した。
 患者は移植までに、血管がつくられるのを防ぐ治療薬を計13回、眼球に注射して視力の悪化を抑えていた。しかし、矯正視力は0・09まで下がった。

 今回の発表によると、術後7年の時点でも、iPS細胞からつくった細胞シートは、移植された場所にとどまり、腫瘍化など異常な細胞増殖もみられなかった。7年以上にわたって、治療薬の注射をしなくても、矯正視力は0・09のまま保たれていたという。