ChatGPTが視覚障がい者の暮らしを激変させる 画像認識を活用してさらなる自立が可能に)
クーリエ・ジャポン (2023/05/04
テクノロジーの進歩によって、障がいを持っている人が多様なことを容易にできるようになっている。AIを使って人間の多様な要求に迅速に対応するChatGPTを応用すれば、目の見えない人がさらに自立して暮らせるようになる可能性があるという。
視覚障がい者の支援アプリにChatGPTを統合
ルーシー・エドワーズ(27)は、目が見えない。彼女は、英国バーミンガムで、目の見える婚約者と、2匹の盲導犬ととともに、自立して暮らしている。しかし、パートナーの不在時に、日常生活で助けが必要になることがある。それは「初歩的な質問」であることが多い。たとえば、2種類の豆の缶詰を区別するようなことだ。助けがなくては、すでに甘辛く煮込まれたベイクドビーンズの缶詰を、夕食のチリコンカルネに入れてしまうかもしれない。
視覚障がい者用のアプリ「ビーマイアイズ」は、2015年の公開以来、エドワーズのような人々の日々の暮らしを助けてきた。視覚障がい者はアプリを通じてボランティアとビデオ通話で繋がり、目の前にあるものを説明してもらったり、作業に付き合ってもらったりできる。
しかし、他人に頼ることに抵抗があり、助けを求めようとしないユーザーもいる。そこで、アプリの名を冠した同組織は、アプリにChatGPT-4を統合した新しいバージョンを開発し、少数のユーザーでテストしている。ユーザーは、その詳細な分析とスピードに感動しており、さらに自立した暮らしが可能になっている。これはAIチャットボットの有望な使い方のひとつとなる。
ボランティアがいてもAIに頼った理由
元のバージョンのアプリは、音声による支援をベースとしており、ビーマイアイズのデータベースに登録された目の見えるボランティアと、いつでも無料でビデオ通話ができる。ボランティアは650万人以上おり、その在住国は170ヵ国以上で180以上の言語をカバーしている。ボランティアは、冷蔵庫の中身やその消費期限を確認したり、色を識別したり、ユーザーを誘導したりする。
「テクノロジーと人間の優しさが融合した素晴らしいサービスなのです」と、CEOのマイク・バックリーは語る。この支援のアイデアは、同社の創業者であるハンス・ヨルゲン・ワイバルグによるものだ。デンマークの家具職人である彼は、視覚障がい者だ。
ボランティアに登録するのは、支援したいという気持ちを持つ人々だ。彼らは、自分がいる地域の生活時間帯に電話を受けるようになっており、可能なときに応じる。
しかし、同社は、目の見えないユーザーが、さまざまな理由からサービスを充分に利用していないことに気づいた。同社の調査によると、「他のより助けを必要する人からボランティアを奪うことになる」「個人的なことを聞くのに知らない人に電話するのは気が引ける」「常に他人に依存するのは嫌だ」などと感じている人がいた。
そして、ChatGPT-4が登場した。この最新のAIツールは人間のさまざまな要求に迅速に対応できる。ビーマイアイズにとって重要だったのは、GPT-4が画像を読み解けたことだ。そこで、このアプリはAIチャットボットを統合し、新しく「バーチャルボランティア」というバージョンを作成した。2023年2月から、一部のユーザーがこのテスト版を試用している。テスターの正確な数は明かされていないが、100人以下だ。
ChatGPTの驚くべき性能とスピード
同社によると、最初の試用ユーザーは、ChatGPT版のバージョンの視覚認識と描写能力の高さ、スピード、そして詳細な分析に感銘を受けたという。たとえば、冷蔵庫の中の写真を見せると、何が入っているかを伝えるだけでなく、その食材を使ってどんな料理ができるかというアイデア、さらに本格的なレシピも示してくれる。
コンテンツクリエーターで、ビーマイアイズの有償アンバサダーであるエドワーズも、そのテスターの一人だ。彼女は2013年、17歳のときに珍しい遺伝的疾患により視力を失い、その2年後に同サービスを使うようになった。
エドワーズは、ChatGPT版のスピードに驚かされたと言う。彼女は最近、アプリでヒースロー空港の地下鉄の駅の写真を撮った。すると、5秒以内に、そこからロンドン中心部への行き方をアプリが詳しく教えてくれたという。「これは、目の見える地球上のどんな人よりも速いですね」と彼女は語る。
人と比較したChatGPTのもう一つの利点は、相手の個人的な意見を排除できることだ。彼女がアイシャドウのパレットの写真をアプリに見せると、正確な色合いを教えてくれる。一方、彼女のパートナーや友人などに見せると、特定の色を何と呼ぶかについて議論になったりする。
ChatGPTの利用に残る懸念
ChatGPT版は、一般公開後も無料となる予定だが、その時期はまだ決まっていない。主な懸念点は安全性で、ユーザーはかなり注意を払わなくてはいけない。また、これは補助的に使うべきで、視覚障がい者が使う他のデジタルおよび物理的なツールも使い続けるべきだと考えられている。
バックリーは言う。「これは白杖や盲導犬の代わりにはなりません。道を渡るのに、このアプリを使うのはやめましょう」
初期段階のバーチャルボランティアは、まだ不正確なことがある。業界では「幻覚(ハルシネーション)」と呼ばれるが、画像に対して間違った出力をすることがあるのだ。たとえば、トースターをスロークッカーと誤認したり、スピーカーを空気清浄機と誤認したりすることがある。しかし、バックリーは「常に改善と微調整を続けている」と説明する。重要なのは、代替として人の手を常に借りることだ。ボランティアコミュニティを廃止することはないとバックリーは述べる。
それでも、エドワーズは元のバージョンを懐かしんではいない。人とのつながりはいいけれど、それは自分の生活の中にすでにある。彼女は、ChatGPT版からより多くを得られると感じており、この技術がどのように進化し続けるか楽しみにしている。
「AIが学習すればするほど、私は視覚障がい者としてより自立的に行動できます。これはもう二度と取り戻せないと10年前に諦めたことです」